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第93話
差尻さんは気丈にも微笑んで、僕のことを気にしてから去って行く。
あんなにつま先から綺麗にしている人。
僕が意識を覚まさない間、批判を受け続けていた遼を支えてくれていた女性。
幸せになってほしいのに、僕に何ができる。
今だって中学の時から好きで、大学卒業まで、青春時代の恋心を全部持っていかれていた遼のことになると、気持ちがくすぶるのに。
傷は癒えても、浮気されても、嫌いになれなかったんだから。
「風海さん、リハビリ室へ行く時間ですよ」
井田さんが病室に入ってきたので、僕は必死で頷いて立ち上がる。
なのに心臓が早鳴って、不安で吐いてしまいそうだった。
「大丈夫ですか? 顔色が悪いけど」
「ううん。ちょっとね。大丈夫だよ」
壁際に畳んでいた車椅子を持ってこようとしたのでやんわりと断って立ち上がる。
筋力だ。筋力をつけて、さっさと退院しよう。
そうすれば遼の婚約者も、遼との関係もきっと全部薄れて消えてしまうんだから。
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