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第94話

「トリックオアトリート!」 ケラケラと笑う声に気づいて中庭を覗く。 すると犬の耳と尻尾を付けた征孜くんと、魔女の帽子をかぶった女の子、吸血鬼のマントを付けた男の子や変装した子どもたちと彼が笑っているのが見えた。 子どもたちの持っている籠の中はお菓子でいっぱいだ。 「準備、大変ですね。ハロウィン」 「毎年だからそうでもないんですよ。それに征孜くん、知り合いからお菓子を沢山提供してくれるし」 「彼らしいね」 彼らは征孜君が車椅子を押していくその後ろを、ハールメンの笛吹きみたいに後をついていっている。子どもたちの行列に、大人たちも笑顔がこぼれている。 「風海さん、トリックオアトリート!」 「え、ああ、一文字くんだ」 振り返ると、黒猫の着ぐるみを着た一文字くんが両手を差し出していた。 「困った。部屋にフルーツとかプリンぐらいしかないよ」 「ふん。冗談ですよ。大人の困った顔が楽しいだけです」 ふふんと威張った様子だけど、手に持っているバックからお菓子が見えている。 「遼おじさんが病院にきてるはずだから、あの人の困り顔を見たくてね」

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