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第98話

勝手なことを言う。 僕は君に幸せになってほしい。 僕が目覚めなかった五年間苦しめていたのだから、幸せになってほしいだけ。 それだけなのに、君を苦しめてしまうのか。 僕だって。 君が差尻さんと婚約していなかったら、たぶんずっと君が好きだった。 誰のものにもならないでって思っていたし。 君が五年経った今も僕の恋人だったら、征孜くんを好きになる可能性はない。 今、彼を好きになる可能性ができたのは、仕方がない。僕が悪い。 そう思っていたのに。 「俺も怖かったんだ。怖くて、窮屈だった」 遼は低い声で、唸るように絞り出して声をあげる。 「俺は親にも友達にも、お前と付き合ってるって言ってもよかった。世間体とか同性同士とか全然偏見なんてねえし、他人の言葉なんて興味がねえからな」 「……僕は無理だね」 人の意見を聞いてから同調してしまうように、少しでも普通じゃない自分を誰かに知られるのは怖かった。 だから、遼と付き合ってることは誰にも言ったことはない。誰にも知られたくないと、秘密にしていた。 「君は、渡辺さんには僕のことを言っていたようだね」

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