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第100話
首元に顔を埋められて、彼に匂いが僕を満たしていく。
僕のものだった香り。この香りを嗅ぐと、君が愛しくて苦しくて、とても切なくなるんだ。
好きだよ。好き。好きだったよ。今も、好きだったよ。
「事故の日。俺はお前をそんなに苦しめて追い詰めていると知って絶望した」
「遼、やめ」
「あんな追い詰めた行動に出るとは思わなかった――。受け止めるのに一人じゃ無理で、あいつに甘えてしまったけど俺は、俺はお前から逃げたら駄目だ。向き合いたい」
「りょう」
あの事故の日――?
事故で岩に衝突してしまった日。
「あの時、お前は――」
言いかけた言葉を詰まらせ、視線をさ迷わせた。
僕に言っていいのか迷ったような表情。
あの時のことをなぜ遼が苦しそうに言うんだ。
「あの時、君は別れてもいいって言ってたのは本心だった? それとも僕を試すためのウソだったの」
苦しかった。遼が遠ざかった。背中を向けた時に、確かに僕は泣いたよ。
「お前が思い出さないってことは辛いからなんだろう。それに結果的には俺が追い込んだせいだからな。でもお前はあの時」
ゆっくりと。
ゆっくりと遼の唇が信じられない言葉を吐く。
その真実は、遼を五年間も追い詰めていた理由だった。
「やっぱり俺はあんなことをさせてしまったお前を、嫌いに離れねえし、ずっと謝りたかったし、今でもどうしても好きなんだよ」
「……差尻さんがいるのに?」
あんなにやさしい人がいるのに。
それでも、たった今遼が言った言葉に僕は動けなくなった。
抱きしめられた遼の手を自分から掴んだ。
「ああ。あいつが居なかったら、五年も耐えられなかった。すげえ感謝しているし、大切だ。それでも」
それでも、俺はお前が好きだと、好きであることを許してほしい。
苦しそうに遼がそういった。
「風海さん!」
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