101 / 138

第101話

Side:一条 征孜 一文字が走ってきて、俺の目の前にやってくると息を切らしながら教えてくれた。 『遼おじさんが風海さんを待ち伏せして、言い争いが始まってる』 だから井田さんに車椅子の子を押すのを頼んで、駆け付けた。 駆け付けたのに、まるで悪夢を見ている気分だった。 名前を呼んだのに、風海さんは俺の声に気づかず、あいつに引き寄せられて抱きしめられていた。 その手が、恐る恐る背中に回って――風海さんはあいつの気持ちを受け入れるように抱きしめていた。 悪夢だ。 あいつが何度も何度も浮気をしていたのに、それにひたすら耐えて泣いていたのに。 彼はまた許すというのか。 「風海さんっ」 引き剥がそうと二人の間に割って入るが、風海さんの顔が真っ青で驚いた。 あいつの気持ちを受け入れて喜んでいる表情ではない。 何かに怯えているような、涙目の目で、身体を震わせていた。 「お前、何を言ったんだよ!」 「――真実を告げただけだ。あの事故の日の」 「はあ!?」 お前が言うなと散々頼んだくせに。 風海さんが傷つくから、言わないでくれって。 お前は、風海さんのためだから言うなと俺に頼んだんだろ。 「ああ。お前が怒るのは分かる。俺は、俺のために言った」 「てめえ」 「どうしても、俺も風海を誰にも渡したくないと。駄目なんだ。好きすぎて駄目なんだって」 自分勝手な言い分に、許せなくて怒りで拳が震えた。 「俺は、風海に怒っていないし、責めない。ただ、あれほど追い詰めてしまったことの贖罪をしたい。何もかも投げ捨てて、全部風海に捧げてもいい。本気だ」 それは風海さんに言ってるんじゃない。 俺に言ってる。俺の気持ちを知って、俺を挑発しているのだとわかる。 「俺は本気だ、征孜」

ともだちにシェアしよう!