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第105話

「院長にも遼が悪くないって説明しないと」 「……男同士の痴情のもつれって? 風海さん、言えるの? あいつは貴方を想って言わなかったのに、そんなこと言ったらあいつに迷惑になるとでも思わなかったの?」 皮肉な笑みが零れてしまった。 嘘だ。ただ彼がうちの親に言わないように、止めるための必死で卑怯な嘘だ。 そんなことを言ったら、この田舎町だ。院長のうちの親が彼を非難したらこんな町、彼は居られなくなってしまうだろ。院長は自分の弟だからこそと、きつい処置をあいつの下していたんだから。 「……僕が彼の夢だった就職先も白紙にさせて、五年間非難されていたんだから、それでも彼は悪くないと言わないと」 「落ち着いて。風海さん。……落ち着いて」 「落ち着けるわけないよ」 震える肩は折れてしまいそうに細く頼りない。 「下手したら、死んでしまっていたのは遼だったんだ」 「……」 「それなのに、遼は僕が目覚めた時、駆け付けてくれたんだよ。……彼が差尻さんを好きになるのは当然だよ。殺されかけた僕に、愛想をつかしていいはずだったのに」 酷く混乱している風海さんに舌打ちしてしまう。 こんな時にそばにいないアイツのために、心を痛めないでほしい。 俺がいるじゃないか。 あんなやつ、浮気されて、被害者の風海さんを追い詰めるように別れ話をして追い詰めたあいつが悪いのに。 窓の外を見ると、病院から出ていこうとするアイツが見えた。

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