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第111話
立ち上がって椅子に缶珈琲を置くと、遼は僕のベットまで近寄り、跪いて僕を見上げた。
五年眠っていて、目覚めて一か月。
ようやく、遼の目をまともに見れた気がする。
最初は少し避けられているような違和感があって、それから婚約を知って、まともに見れなくなっていたから。
「お前に真実を言えば、絶対に傷つくとわかっていた。黙っているつもりだったのに」
「ううん。僕の方がごめんなさい、だろ? 僕は君を殺そうとしたんだから」
ベットに突っ伏す遼の頭を、恐る恐る触る。
付き合っている時、僕は眠っている遼の頭のつむじを探してこっそり押すのが好きだった。
それを許されるのは付き合っている証拠のようで、好きだった。
いつもそうだ。
僕は遼と付き合っている安心感が欲しくて何でもいいから探していた気がする。
恋をすると、隣にいると幸せなのに。
なのに本当に些細なことでも辛くなるし泣いてしまう。
だから僕はもう二度と恋をしないと誓ったはずだった。
「お前が熱を出して二回、記憶がなくなったことがある」
「そうなの?」
「一度目は、海で溺れた征孜を助けた時。二回目は、女連れ込んで、ベットでヤってたのを、玄関でお前が俺たちを見ていた時」
「えええ」
全く記憶がない。
そんな壮絶なこと、どうして。
あ、でも女性の影はちらほら分かってたけど。
「二つとも俺が原因だった。だから目隠しされたとき、泣きながら海に落ちていくお前を見た時――俺が死ねばいい。俺が死ぬからと毎日願った」
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