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第112話
「遼、もう忘れてしまった過去の清算はいいんだ。ただ僕のやったことは絶対に許されない。遼には感謝しかないよ。君はけがはなかったの?」
「俺は幸い、岩にぶつかったけど上手く海に落ちたから怪我はねえ。ただ――お前は外傷は酷くないのに目覚めないって言われて、事故直後のあのやりとりのせいなんだろうなって」
顔をあげない遼は、いつも自信に溢れていて僕を引っ張っていく面影はない。
「傷つけてばっかの10年だった」
初めて身体を繋げて、まあそれぐらいか。
傷ついたけど、それだけじゃない。
「僕は、君を殺そうとして置いて目覚めたら忘れて、都合よく傷ついて最低だった」
「風海、俺はお前がまだ好きだ」
「僕は、差尻さんの方が遼は幸せになれると思ってる」
顔をあげた遼に、格好悪く泣かないように微笑む。
「遼は、きっと差尻さんを傷つけない。彼女も僕のように馬鹿な真似はしない。それに彼女は女性だ。君のそばにいてもいい女性だ」
胸が押しつぶされそうだった。
僕の世界は遼が中心だったから、きっとこんなに遼に求められて心が震えているんだと思う。
部屋に上がり込んだらすぐにベットに行くような関係になって行く前。
僕を体育館の裏で抱きしめてくれたあの頃の遼みたいで、僕は少年のように心をときめかせていたのだろう。
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