116 / 138
第116話
驚いたのは俺の方だ。
俺は柱の後ろから、二人の話を聞こうとギリギリまで近づく。
他の人たちが柱に貼りついている俺をじろじろ見るので、追い払った。
風海さん!
どうしてこんな障子に耳やら壁に目やらある場所で、そんな話をするんだ。
「遼は貴方と婚約解消の話を進めていると言っていました。本当ですか?」
ずるずると柱にもたれてその場に座り込んでしまう。
元恋人と現恋人の修羅場だった。
どうして熱が下がったばかりのその体で、この人は無理ばかりするんだ。
「ええ。本当よ。一緒に住んでいるマンションに戻ってこなくなっちゃったわ。テーブルに指輪なんて置いて。理由を聞いても、黙っちゃうし」
「……差尻さん」
風海さんの声は震えていた。そして今にも消えてしまいそうに弱弱しかった。
「遼は、五年間支えてくれた貴方が本当に大切で、一番大切にしないといけないのは貴方だってわかってる。なのに甘えてるんです。貴方なら甘えても許してもらえるって。だから、こんな酷いことをするんだと思います」
「なんで? なんで風海さんがそんな心配を」
言いかけた差尻さんは何かを察したのか言葉を失う。
二人の表情は柱の向こうからでは見えなかった。
「遼は、僕に甘えて、僕も同じように傷つけられてばかりだったから」
「風海、さん」
「遼とは恋人でした。遼は今、贖罪として僕のそばに居ようとしています。でも貴方が一番大切な存在のはずだから、だから僕のことは気にしないで二人は結婚してほしいんです。こんな話、貴方には最低ですが、僕はもうこうするしか、二人の結婚を守れなくて」
ともだちにシェアしよう!