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第118話
当事者ではない自分まで胃が痛くなるような、その場から逃げ出してしまいたいような修羅場で、二人は黙っている。
それが無関係な俺の胃を攻撃していた。
「一番楽なのは、風海さんって存在を受け入れたまま、遼と結婚することなのかしら」
「……そうですね」
「貴方は、遼と私が結婚してもいいってことは、遼にもう気持ちはないのね?」
数秒だったけれど、俺には永遠にも感じる長い間、風海さんは小さく息を飲みこむのが分かった。
時が止まったのかと錯覚するような時間の中、風海さんが辛そうに言葉を吐き出す。
「僕には遼と幸せになるなんて、できない。そんなの許されない」
「でも、好きよね?」
「……貴方と幸せになってほしいぐらいには、僕には大切で、――青春時代の親友で」
そおっと柱から顔を出すと、風海さんが泣いているのが見えた。
必死で足の上に置いた手を強く握って、落ちる涙を振り払うことはせず、差尻さんを見ている。
「僕には勿体ないぐらい、大切な人でした。幸せを、誰よりも幸せを願ってるんです。でも僕じゃ駄目だって。遼だってわかってるのにどうすることもできなくて」
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