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第121話

Side:入井 風海 「恋愛とか、人を好きになるって、幸せな気持ちだけじゃねえっすね」 彼が青臭い言葉をつぶやく。 「俺なんて、こんなに自分が情けない奴だとは思いませんでした。貴方の一言で天国にも地獄にでも叩き落とされてしまう」 征孜くんは、僕の気持ちを優先して押し付けることはしなかったけど待っていてくれるのを感じた。 彼は僕の帰る場所になろうとしてくれている。 僕が遼とけじめを付けたら、抱きしめてくれる距離で見守ってくれている。 「……」 「お願いだから、俺、そんな強くねえんで、今は突き放さないで。そこまで俺の心は強くできてないっす」 遼とけじめをつけても、誰とも恋愛なんてしたくないと伝えたかった。 伝えたかったのに、それは彼を傷つけることになるからと言えなかった。 こんな僕なのに。 遼も差尻さんも征孜くんも、僕の周りは優しい人たちばかりだった。 優しすぎて、消えたくなるほどだ。 「入井くん、退院の話が上がっていましたよ」 朝の体温チェックの時に、井田さんが教えてくれた。 「もう歩行も問題ないし、数値も安定している。それに頭への後遺症はなかったって。事故の原因が分かったんですね。ダメージからではなく精神的なことだって」 おめでとうございます、と井田さんは心から喜んでくれた。 何も前後の話を知らないから素直に喜んでいくれている。 なので僕も言葉を飲み込んで、微笑んだ。ありがとうって。 「それで退院ってどれぐらいで?」 「次の検診で問題が無ければ、なので。早くて二週間。今年中には可能かもしれません」

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