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第123話

「お、井田もいるのか」 「遼くん」 遼がコートを翻しながら、ビニール袋を片手にやってきた。 婚約解消を噂されている身分で、堂々と恋人がいる病院に通えるのは遼ぐらいだろう。 僕にもそれぐらいの鋼の心臓が欲しい。 「じゃ、じゃあもうすぐ食事も来るから」 噂を知っている井田さんの方が気まずげにそそくさと病室から出て行ってしまった。 「遼、どうして来たんだ」 「どうしてって、お前の顔を見に来るに決まってるだろ」 「だって、差尻さん」 「……ああ」 遼は取り出したコンビニのお弁当とお茶をテーブルに置きながら、まるで他人事のように言う。 「お前、俺たちが恋人だってばらしたのか?」 「元、だろ。ばらしたよ」 「学生時代は、隠してたくせに。俺ももう堂々とお前の恋人だって名乗っていいのか」 「だから、元、だろ」 「俺はやり直したいって言ってるだろ」 頬に冷たいものが当てられ、急いで身をよじる。 こんな寒い時期に、彼はアイスを買って来たらしい。 「冷蔵庫しか、ないよ」 「じゃあ今、食べろ」 「……君が食べなよ」 「じゃあ、お前はこっち」 コンビニスイーツを食べるのは何年ぶりだろうか。 遼から渡されたのはサンタの形をしたケーキだった。 「病院の真面目~なメニューばっか食ってると、ジャンクフード食いたくならねえか」 「……」 めちゃくちゃなります。 遼が買ってきたコンビニのから揚げ弁当なんて、脂っこくて保存料とか着色料とか絶対にやばいはずなのに、美味しそうに見えてしまう。 「だから買って来てみた。食事制限はねえんだよな」

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