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第126話
一度できてしまった隙間を、埋めようとしてくれてる。
事故の前のような、事故の前の浮気をする前のような優しい遼が、いる。
僕が求めていた遼。僕が好きだった遼。
必死で縋りついて求めていた、あの時の遼に戻ってくれてる。
――演じているように、昔のノリで隙間を、距離を、時間を、彼なりに埋めようとしてくれている。
お互い無理をしないと距離が縮まらないのに、その行為は本当に必要なのだろうか。
好きで、好きで、好きで、苦しくなる。全部ほしくなる。
消えてしまいたくなる。
遼の隣に寝ていても、ベットの下で転がる口紅を見つけてしまった時のように、なぜか辛い。
でも僕が、それを言う権利はない。遼を殺してしまおうとした僕には、ない。
だったら、遼が気が済みようにそばにいた方がいいのかな、とも思う。
差尻さんと結婚して、愛人みたいな。
差尻さんがそれを許してくれるなら、なら。
僕はもう恋人はいらないから、たまに遼の気が向いたときに恋人のようにあつかってもらえるだけでいいんじゃないか。
触れてくるのを拒絶するつもりはないけど、抱きしめ返すのはできない。
「かーぜーうーみーさーん」
「ひょ!?」
「ひょ?」
ぼーっと考えていたら、目の前まで接近していた征孜くんに気づかなかった。
「なにそれ、驚き方、まじ可愛い。まじ国の遺産」
「意味が分からないよ。もうリハビリの時間だったかな」
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