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第132話
渡辺さんは僕を見るや否や、露骨に嫌そうな顔をした。
悪気はなく、こんな場所で倒れられたら心配だからだと思う。
ただ体はまだ完治してはいないかもしれないけど、病弱ってわけではないので、そこまで心配してくれなくていいのに。
「俺が無理やり連れてきた。何かあったら俺が責任とる」
「……遼」
「ふぁーお」
変な声出るわ、と嬉しそうな渡辺さんは、遼に顎で向こう側を差した。
「あっち。水温も水質も問題ねえから、お前もチェックしてこい」
「ああ。じゃあ風海を室内に」
「はいよ」
一緒に連れて行ってくれるわけじゃないのか。
僕にイルカを見せてくれるって言ったくせに。
渡辺さんと軽トラに乗ると、でこぼこした獣道を進む。
窓や車体に木の枝がぶつかっても全く構わないと、速度を緩めない渡辺さんの運転に少しひやひやする。
「俺なあ、結婚式にギターで乾杯を歌う予定だったんだがなあ」
「え、あ、遼の……」
「延期で、式場キャンセルであいつ金すっからかんだろ。何を考えてるんかねえ」
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