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第54話

台所の戸を開けて入ってきたのは、辰崎さんだった。 若々しい紺色の縦縞ストライプのスーツで、思わず格好良くてほほが熱くなる。 が、辰崎さんは一瞬ハトが豆を食らったような顔をしたが、すぐに俺たちの格好を見て、頭を下げ謝ってきた。 「大変申し訳ありませんでした。切腹いたします」 「せ、え?」 「新婚の新居だというのに空気も読まずにこのような失態。死をもってお詫びを」 「や、やめてください! 死んだらダメですっ」 「辰崎さん、申し訳ない。車の手配を用意していたのに一時間も連絡なしで待たせていた。俺が悪いんだ」 あっくんも真っ青になって辰崎さんを止めている。 「俺がつい、和葉さんにご飯を作って登校するだけだったのに、三日ぶりだから浮かれて……」 「違うよ。俺が引き留めたじゃないか」 「ううん。和葉さんの魅力に、大学へ行く気が失せたというか、和葉さんは悪くないって」 「あっくんは悪くないってば」 「和葉さんはもっと悪くない」 俺たちが言い争っていると、辰崎さんが大きく咳払いした。 「お邪魔なようですので、私はどこか遠くで切腹いたします」 「待ってよ!」

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