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第55話
慌ててあっくんが止めようとしたが、辰崎さんは真顔でつま先から頭のてっぺんまで見上げて首を振った。
「まずは何かお召し物を着てください」
「すぐに」
裸エプロンという最高のシチュエーションだったのに、辰崎さんは静かに怒りを放ちながら客間へ消えて行ってしまった。
「和葉さん、すいません、ご飯よそってるのでお味噌汁だけ自分で注いで食べてください。一人で食べさせてすいません」
「いや、全然いいけど、大丈夫?」
「心配いりませんよ」
ウインクなんてしちゃってうちの嫁は可愛いなと呑気にお味噌汁を掬っていたら、客間から辰崎さんの声が聞こえてきた。
「竜宮家に仕えて38年。22歳からお世話になっている身で、跡取りである貴方様にこのようなことを言うのは偲ばれますが」
……泣いている。辰崎さんがおいおいと泣いている声がする。
「どうか跡取りであられる貴方があのような破廉恥なお姿は、私に見つからないように頼みます! 悲しゅうて悲しゅうて胸が張り裂けそうです! あなた様を成人するまでお目付け役にしてくださった社長にどのような顔で会えばいいのか」
「ごめんね。じいには赤ちゃんの頃からお世話してもらってて、親みたいに甘えてたけど心配させてごめん。ちゃんと公私は分けるから、ね」
必死で慰めるあっくんは、優しい。半分は俺が頼んだからなのに、言い訳もしないで。
というか、仕事なのに着替えたのは私服だったな。
あっくんは、警察で言うとどの階級でそどこに配属なんだろう。
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