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第66話

「えー、まじ来てよ。先輩に頼まれたんだよ。ほら、旧財閥の、家が華道の家元の香里先輩。兄さんの元婚約者の妹でさ、強く出れないんだよ」 「ふうん。でも俺は家でパートナーが待ってるから無理。あと結婚してるのに女性との食事会は行かない」 「いいじゃねえか! どうせ行ったって和葉さんって人以外には興味も持たねえんだから」 だから無駄だって言いたいんだけど、伝わらないだろうな。 顔に油性ペンで『面倒くさい』と書きたいぐらいだ。 「分かったよ」 「まじか!」 「自分で断ってくる。香里さんはどこ?」 一瞬飛び上がって喜んだ恵が、すぐにしゅんっと項垂れてしまった。 でも恵にも香里さんにも、期待させてできないことを誤魔化すのは好きではない。 香里さんはエレベーター前の談話スペースで待ってると聞き、そちらに向かう。 エレベーター前の談話室は、一階の中庭が一望でき、本革の一人用のソファで落ち着いた空間でもあり常に賑やかな場所だった。 そこで、一際目についたのは、凛と背筋を伸ばし、缶コーヒーを膝の上にハンカチを敷いてから乗せている女性だった。 「香里さん」 「昭親くん」

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