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第68話
言いかけて、俺はカバンを地面に落とした。
少しだけ開いた襖の向こうで、和葉さんの白い手が見えたのだ。
本当は、人の部屋にノックもなしに入るなんて最低だけど、俺は止められなくて襖を蹴破る勢いで中へ入ってしまった。
「和葉さん!」
「ん?」
「!」
目を擦りながら起き上がる和葉さんは、俺が脱いだエプロンを抱きしめて眠っていた。
「……やべ、布団まで行くの面倒で眠ってたわ。おかえり」
まだ少し眠たそうな、突っ返そうなたどたどしい声で言った後、俺を数秒見た。
そしてなぜか気まずげに目を逸らす。
「あの、そのエプロン、俺の、です」
「あ、あー、うん。布団に使った。返す」
そそくさと立ち上がると、和葉さんは俺にエプロンを押し付けてきた。
が、そんな答えで満足するはずがない。
「か、可愛いです。俺、もう我慢できない」
立ち上がった和葉さんを正面から抱きしめて、耳元でささやく。
「大好きです。抱いて、いいですか?」
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