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第72話
花屋、出荷? 直腸?
和葉さんの唇から、不思議な言葉ばかり出てくる。
慣れてるとはなんだろう。俺は10年間和葉さんだけしか好きになっていない。
和葉さんのことになると、こんな風に猪突猛進、とりあえず周りから囲うみたいな、卑怯なやり方しかしていない。
けれどそれが逆に不安にさせた?
朝言っていたマリッジブルーで情緒不安定になっているのかもしれない。
「出荷とか俺はしませんよ。なんでそんなこと言うんですか」
「出荷しないの?」
目から鱗が落ちんばかりに驚く様子に、首を傾げる。
そんなに驚く言葉だったろうか。
「大切に育てた花を出荷なんて。俺ならちゃんと必要な人に贈呈しますよ。真心こめて作った花ですからね」
安心してくれると嬉しい。
まだ伝えた方がいいだろうか。
「それに和葉さんが花なら、俺は手放さな――え?」
畳に真珠のように大きな涙の染みができる。後から後から、音を立てて落ちていく。
「和葉さん!?」
「ごめ、目が乾燥して……三日徹夜したから、目が乾燥して」
乾燥したと強く強調した後、ごしごしと浴衣の袖で涙を拭う。
「俺、やっぱ今日、もう寝るな」
「ま、待ってください」
明らかに様子が変な和葉さんを一人にするわけにはいかない。
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