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第86話
「おーい。あっくん、生きてる?」
押さえていた手が緩まったけど、離れたくなくて自分から顔を埋めていたら、心配してくれた。
「大丈夫です。ここで死にたいなって思ってたから」
「ふうん。うそつきー」
突き飛ばされ畳に転がると、和葉さんは俺をにやにや見下ろしている。
「ねえ、俺のさ、職業知ってる?」
「官能小説家です」
「ふふふ。じゃこれは知ってる?」
テーブルに置かれたコップを持つと、和葉さんは自分の太ももにコップを斜めに傾け、中の液体をこぼす。
太もものその奥に三角形になって液体が溜まっている。
「知ってる? わかめ酒―。ぷ、ぷぷぷぷぷぷ」
自分で言っておいて爆笑して、テーブルを叩いている。
わかめ酒って……。
確認のために、太ももまでめくりあげていた浴衣を、ちらりとめくってみる。
すると、下着を身に着けていない。ゆらゆらと薄い毛が揺れている。
「何見てんだよ。――早く飲め」
「え?」
「わかめ酒、飲めよ。畳にこぼれるゾ。一杯数万の幻の酒が」
「そんな」
めちゃくちゃ飲みたい。飲んで良いなら飲みたい。
でも和葉さん……。
「俺、18歳なんでお酒、飲めないんですけど」
酔っ払い、高圧的だった和葉さんの目が、真ん丸になる。
「……は? 結婚できるのに、酒が飲めないの? なんで?」
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