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第96話

「や、ぁあぁっ だ、駄目えぇぇっ」 「――?」  返事をしようとしたはずなのに、俺は入れていた指をあろうことか『く』の字に曲げてしまったようだ。 背中が大きくしなり、畳に何度もぶつかって激しく痙攣したかと思うと、ぽたぽたと白濁した液体が和葉さんのお腹に放たれていた。 「し、信じらんな、イっちゃった」 和葉さんの目がじわあと大粒の涙を溜めた。 俺はすぐにテーブルの上にあったティッシュで証拠を消し、泣いている瞼に口づけた。 「い、今のはノーカンです。俺が話に夢中で指をおろそかにしたから。ほら、まだ和葉さん、指を締め付けてきたし」 「だって、俺12歳も年上なのに」 次は泣き上戸なのか、めそめそと子供のように泣き出した。 けれど、指は離してくれないし、俺もこの心地よい熱の中から離れたくなかった。 「気分を変えて、俺の部屋でシましょ。ね?」 ふいっと横を向いた和葉さんは、不貞腐れたように唇を尖らす。 そしてぶつぶつと呪文みたいに小さく単語を唱えだした。 「和葉さん?」 「……突き当たりの一番奥の部屋、見た」 「あ、ああ。和葉さんと俺の結婚式用の衣装です」 「着替えてくれたら、シていいよ。警察官の正装服に――」

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