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第101話
「ですから昭親医師では、和葉さんの不安を取り除くのは無理なんですよ。聴診器ぐらいで心の音が聞けますか?」
「頼む。医師云々は今は攻撃しないでくれ」
辰崎さんが帰ってくると分かっていながら盛った俺が悪いのは分かるが、今は本当に勘弁してほしい。
「ですから、本物の医師ではないあなたは、その聴診器でイチャイチャする已然の問題ですよ」
「……わかっている」
もしかして辰崎さんは、お酒の力を借りて和葉さんの不安を聞き出そうとしてくれたのかもしれない。
俺だって、身体に触れる前にまず、触れなきゃいけない場所はあったはずだ。
「水!」
突然、隣の部屋で眠っていたはずの和葉さんが、大声で怒鳴った。
「暑いから脱ぐ!」
「下半身がかゆいしぬるぬるする!」
「星はまだか!」
一つひとつの我儘は、子供のように心の底の飾られていない本音で、無理なことは何一つない。
だから俺も負担にはならない。
でも。
「俺、自分の好きだって気持ちを押し付けすぎて、和葉さんの小さな我儘とか、本音とか聞いていなかった気がする。俺の気持ちに気づいて、俺を好きになって、何でもするから、ただ傍に居て。でもそれじゃだめだ」
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