121 / 268

第123話

自分の臆病さに涙が出たのに、あっくんはその涙を指先で優しく掬ってくれた。 「ごめんなさい。俺に売られるって思って怖い思いさせました」 「いや、違うんだ。幸せすぎて、そんな展開を考えるしか現実から逃げられなくて、その……」 どうしたらいいか、それは本当はもう俺は分かっているんだと思う。 覚悟を決めた。昨日、お風呂は入ったし、大丈夫だろう。 布団をめくって、少し横にずれてあっくんのスペースを作った。 「……おいで」 「え」 「頭痛くてうまく動けないけど、その――あっくんの気持ちを疑ったお詫びに」 「行きます」 頬をつねりながら、布団にあっくんが入ってきた。 途端に、沈んだ布団や温かいあっくんの体温に胸が熱くなる。 嫌なら、とっくに俺だって逃げてるはずだもんな。 「夢じゃないのか、抱きしめてくれますか?」 枕を半分こしていたので、少し頭が揺れて頭の中が除夜の鐘のように声を響かせる。 けれど今は、そんなことどうでもいい。 この年下の嫁を、どうしても抱きしめたい。 抱きしめたいのに、胸に飛び込んでぎゅっと抱き着く。 「夢じゃないよ」

ともだちにシェアしよう!