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第160話
「絶対、端っこはみ出すから塗れないよ。難しい」
「和葉さん、不器用ですからね」
と言いつつ、カメラで撮ろうと近づいてきたら町田さんが手を大きく上げた。
「それだ! 今すぐ旦那に口紅を塗ってもらえ。はやく。はやく」
「え、えー!? なんか恥ずかしじゃん」
「お前たちに触られて肌を露出されている口紅たちの方が恥ずかしい。立場をわきまえろ」
なぜかすっごく怒られた。
あっくんは首に下げていたカメラを置くと、俺を自分の方へ引き寄せる。
「じっとしててくださいね」
「は、恥ずかしいって言ったろ」
「だから可愛いんでするんです」
嬉しそうに笑う、意地悪なあっくんが、紅と筆を持つ。
筆に少しつけて貝殻の内側で取りすぎた分を少し落としながら、俺の頬に触れた。
うーわー。
目をぎゅっと閉じたら、顔を近づけてくる。
「駄目です。俺を見ないと、――二人の前でキスしますよ?」
何に火をつけたのか分からないけど、あっくんが俺にそんなことを言って脅迫してくる。
おずおずと目を開いて、唇を閉じてあっくんを見上げた。
細くて冷たい筆が唇に触れると、愛撫のように体が震える。
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