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第163話

「はーい。自分はモノだ。生きていないモノだ。感情のない、風景の一部だとリラックスしてこっちを見て」 「リラックスできるかよ!」  町田さんの誘導下手すぎる。 けれどおかげでちょっと萎えてきたので、俺とあっくんは並んで座る。 こしょばゆい気持ちで、あっくん側の肩が熱く感じる。 照れてしまいそうだ。 「歯を見せずに微笑んでください。昭親様、完璧でございます。流石です。和葉様、顔が強張ってますよ」 俺の緊張が顔にまで出ているのか、へらりと笑うと『歯を見せない』と再び起こられてしまった。 仕方なく口を少し動かしてみる。文句を言われなかったのでたぶんいいんだろう。 口紅を塗られた唇が、皮膚呼吸できなくてからからに乾いてる気がして落ち着かなかったけれど、あっくんもそうなのか息を飲んでいた。 「……あっくん、楽しかった?」 「まあ、そらなりに。写真139枚しか撮れてないけど」 「でもまあ、今から写真じゃ写せないとこ、見れるだろ?」 俺がそう茶化すと、ぼっと赤面する。 「……和葉さん、煽らないほうがいいですよ」 「うるさいな。煽らないと、こっちが緊張するんだよ」 俺がへっとひねくれた感じで笑うと、町田さんと辰崎さんに怒られた。 「覚悟してくださいね。――和葉さん」 シャッターの音やフラッシュで目がチカチカする中、俺の心と体は震えあがっていたのだった。

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