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七、初夜

 しんと静まり返った屋敷。庭から微かに虫の声や、草が重なり合って音がする程度。 自分の身体からボディソープの香りとまだ少し温かい空気がまとわりついている。  隅々まで、念入りに洗っていたらこんな時間になってしまった。 あっくんはさっさとご飯作ってお風呂入って、寝室へ行ったのに。 いや、俺はどっちかというと、雄臭いにおいは嫌いじゃない。 お風呂入らなくたって全然問題ない。俺は加齢臭が気になるので入っただけだけど、でも。 縁側の床を踏むと、昼間は気にならなかった木のきしむ音に緊張する。 近づいていく音に、きっとあっくんも気づいている。 だから俺も覚悟して、全部あっくんに見せようと決めた。 ほのかに甘い香りがする。何の匂いだろう。 うっすらぼんやりと明かりが見えたので寝室へ近づくと、枕元にアロマを焚いているあっくんがいた。  お風呂上がりの緩い浴衣姿で、四つん這いになってアロマに火をつけている姿、素敵すぎる。 「あっくん、お風呂出たよ」 蚊帳の中に侵入すると、あっくんがこっちにお尻を向けたまま振り返る。 「リラックスできる香りらしいけど、どうです?」 「……まあまあ、かな」 「本当は、化粧した和葉さんをあの着物のまま抱いてみたかったんですが、俺の10年鍛えられた理性が耐えてくれたんです。すごいでしょ」 「……ばか」

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