162 / 268
七、初夜
しんと静まり返った屋敷。庭から微かに虫の声や、草が重なり合って音がする程度。
自分の身体からボディソープの香りとまだ少し温かい空気がまとわりついている。
隅々まで、念入りに洗っていたらこんな時間になってしまった。
あっくんはさっさとご飯作ってお風呂入って、寝室へ行ったのに。
いや、俺はどっちかというと、雄臭いにおいは嫌いじゃない。
お風呂入らなくたって全然問題ない。俺は加齢臭が気になるので入っただけだけど、でも。
縁側の床を踏むと、昼間は気にならなかった木のきしむ音に緊張する。
近づいていく音に、きっとあっくんも気づいている。
だから俺も覚悟して、全部あっくんに見せようと決めた。
ほのかに甘い香りがする。何の匂いだろう。
うっすらぼんやりと明かりが見えたので寝室へ近づくと、枕元にアロマを焚いているあっくんがいた。
お風呂上がりの緩い浴衣姿で、四つん這いになってアロマに火をつけている姿、素敵すぎる。
「あっくん、お風呂出たよ」
蚊帳の中に侵入すると、あっくんがこっちにお尻を向けたまま振り返る。
「リラックスできる香りらしいけど、どうです?」
「……まあまあ、かな」
「本当は、化粧した和葉さんをあの着物のまま抱いてみたかったんですが、俺の10年鍛えられた理性が耐えてくれたんです。すごいでしょ」
「……ばか」
ともだちにシェアしよう!