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第195話
「ではシャワーは遠慮してお暇しようかな」
「なんですか、それは。散々好き勝手しといて」
あっくんが脱力しながらも、社交辞令に引き留めることもせずそのまま携帯を手にする。
「送りますから。恵を迎えに行ったその車に乗って帰ってください」
「あはは。恵はただのドライブだってね」
「ちょっと待ってくださいね」
電話をかけて席を立とうとして、俺の方を見る。
一人置いていくのが心配なのが伝わってくるから、横を向いた。
「さっさと電話してくれば?」
夫としての余裕なしの拗ねた言葉に、自己嫌悪。だけど、落ち込むあっくんの背中に、なんて言葉をかけていいのか分からなかった。
「えっと、和葉さん、と下の名前で呼んでいいでしょうか」
立川市長の秘書の凛矢さんに話しかけられたので、俯きながら頷く。
やっぱり初対面の人には、身体が強張ってしまう。10年間逃げ回った代償に接し方が分からない。
「では和葉さん。今日は突然すいませんでした。スケジュールをお互い開けて置いたら密会みたいになるので本当、偶然通りかかったようなわずかな時間しか滞在しないつもりだったんです」
眼鏡を上げながら、無表情に見えた凛矢さんの顔が微笑む。
おずおずと人の顔を見上げたくせに、吸い込まれるように魅了されてしまった。
「私たちは、世間に公表したので町で二人で歩けないほどプライベートを詮索されてしまうので、今日は久しぶりに誰の目もない場所でテニスができました」
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