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第198話
嬉しい。すげえ好き。溢れて止まらない。
口の中が渇いて張り付く。
「――どうしました?」
俺の目線に合わせてすこし屈む。
その仕草さえ、俺への優しさが伝わってきて、胸が苦しくなる。
「あ、驚きましたよね。立川さんたちは悪い人ではないんです。今度落ち着いて食事でもしましょう。こっち、行きましょう」
散歩しようと持ち掛けたくせに、一歩も動かない俺にあっくんが指をさす。
指が示した先は、虫の声がする庭の小さな森の中。
「竹を生やしてみたんです。綺麗だし、夏には七夕も飾れるし、竹林って、木漏れ日が美しいし。葉の擦れる音も透き通っていて好きなんです」
川を渡るための小さな橋の上、俺は爆発しそうな思いを伝えたくてもう一度立ち止まった。
「昭親」
声が震える。胸も熱くて震えていた。
「……俺を、俺を選んでくれてありがとう」
シンプルに、飾ることもできない。
小説家だっていうのに、気の利いた言葉がなんで出てこないんだ。
「この屋敷とか、誰かの言葉で気づかされていくけど、どこにいても昭親の愛情を感じて、嬉しい」
「和葉さん……」
「きっと俺、日毎(ひごと)、お前のことが好きになっていって、思いを募らせてく」
辰崎さんの言った通り。結婚した後に、どんどん好きになっていく。
「だから、明日の方がもっと好きだろうけど、伝えとく。お前が好き。すげえ愛おしい」
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