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第205話
「今日は抱っこしてあげませんから」
「えー、怒った?」
「はい」
あっくんは拗ねた口調のまま、俺を肩に抱き抱える。
なんだ。お姫様抱っこはしないだけで、出荷するみたいに抱きかかえてはくれるんだ。
「昭親医師、俺、病気かもしれない」
「だから、注射してあげますってば」
「昭親医師が、俺の名前を呼ぶたびに胸が苦しくなるんだ。注射で治るかな」
鍵を閉めた玄関に、お行儀悪く靴が放り投げられた。
明日は、あの靴の予想だと雨だ。
あっくんは、せっかく俺がプレイに乗っているのに無言。
それがちょっと面白くない。
本当は、あっくんだってこんなシチュエーション嫌なはずないのに。
布団の上に再び降ろされたので、俺は薄く足を開く。
「ねえ、ここにいっぱい注射したら――この恋煩いは治るかな?」
「――っ」
眼鏡を放り投げた。
邪魔は白衣も放り投げる。
そのまま、でいい。
いらないよ、あっくんさえいれば、その涎が出そうなほどストイックでエロい白衣もいらない。
「治らせない。悪化させてやる。いっぱい注いで、――絶対に俺から離れられないようにします」
「じゃあ、あっくんなしでいられなくなるのか」
クスクスと笑うと、覆いかぶさってきたあっくんの声は、今にも泣きだしそうな声だった。
「とっくに俺の世界は、和葉さんなしじゃ駄目ですから」
「へ、あっ、ひゃっ」
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