214 / 268
第216話
『結婚指輪を一緒に取りに行きませんか』
あっくんはそう言った後、固まる俺に苦笑した。
「本当は、閉じ込めて居たいんですけどね」
じゃあ、外出なんてしなくていいじゃないか、と思う。
10年間出ていなかった。これからも出ないと思う。
出なくても生きていける。
なのに、なんであっくんはそんなことを言ったんだろうか。
縁側から見れる季節を感じさせる庭。池の水面には赤い紅葉、黄色いイチョウ。落葉樹からは秋の気配がする。
使われていないテニスコート、たまに二人で歩くと蛍がいる林の中。
あっくんの、俺の、辰崎さんの車が並ぶ駐車場。
この広くて大きな屋敷が、俺の世界。
その中に大好きなあっくんと一緒にいる。
それでよかったのに。
外には未練も興味も、惹かれる何かもない。
「……」
ただ、あっくんと同じ視線で、隣で並んで歩いていくためには、一歩踏み出さなければいけないのかもしれない。
寝室に戻り、充電したまま電話を握ると、俺は辰崎さんに電話をかけた。
ともだちにシェアしよう!