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第216話

『結婚指輪を一緒に取りに行きませんか』 あっくんはそう言った後、固まる俺に苦笑した。 「本当は、閉じ込めて居たいんですけどね」 じゃあ、外出なんてしなくていいじゃないか、と思う。 10年間出ていなかった。これからも出ないと思う。 出なくても生きていける。 なのに、なんであっくんはそんなことを言ったんだろうか。 縁側から見れる季節を感じさせる庭。池の水面には赤い紅葉、黄色いイチョウ。落葉樹からは秋の気配がする。 使われていないテニスコート、たまに二人で歩くと蛍がいる林の中。 あっくんの、俺の、辰崎さんの車が並ぶ駐車場。 この広くて大きな屋敷が、俺の世界。 その中に大好きなあっくんと一緒にいる。 それでよかったのに。 外には未練も興味も、惹かれる何かもない。 「……」 ただ、あっくんと同じ視線で、隣で並んで歩いていくためには、一歩踏み出さなければいけないのかもしれない。 寝室に戻り、充電したまま電話を握ると、俺は辰崎さんに電話をかけた。

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