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第221話

理性が最近、仕事を全くしてくれない。 でも和葉さんは、俺の背中をあやす様にぽんぽん叩いて受け止めてくれた。 「うん。指輪を取りに行ってから好きにしていいよ」 「まじですか」 「もちろん。でも指輪を取りに行くだけでスーツって大げさだった? 俺、最近の服装の流行とか知らないし」 あっさりと、身体を離して落ち着かない様子。 俺の理性がポンコツのせいで、10年ぶりにまともに外に出てくれた和葉さんの不安を、受け止めてあげられなかった。 ああ。自分を殴ってやりたい。 「あっくん、聞いてる?」 「あ、はい。勿論です! スーツで最高だと思います」 「……それ、答えになってないから」 クスクスと、口元を隠すように笑う。 その仕草さえ愛おしい。 今すぐ発狂しそうなほど、和葉さんが好きだ。 「半分賭けで言ってみたんですが、どうして外に出てくれたんですか?」 平然を装い、車の助手席のドアを開けながら聞いてみた。 すると、和葉さんは耳に髪を掻けながらはにかんだ。 「あっくんの日常を覗いてみたかったんだ」

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