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第230話

 和葉さんは呆然としていたけれど、辛うじてオーナーにお礼を告げてフラフラしながら店を出た。 「どうしたんですか?」 「いや、金、かかる。結婚って金かかるな」 まだ自分の左手の薬指を見ている。 「まあ、趣味らしい趣味もなかったから印税入ったばっかで良かった。帰ったら半額、ネット口座からお前に渡すな」 「いりません」  何を言うかと思えば。 「和葉さんは知らないのかもしれませんが、結婚、婚約指輪は、プロポーズした側が出すものです。和葉さんは俺の名字になったので、結納金みたいなものですよ」 「結納って、車、家、指輪、島?」 首を傾げすぎて車に当たったまま、和葉さんは固まっている。 「というか、俺、名字変わってる?」 「はい。和葉さんはあの家で住みだしてからずっと、竜宮和葉、です。住民票変更とか、色々その他手続きは俺がしてます」 「……ほ?」 ほ? 指輪をはめた途端、自覚を持ったらしい。 可愛い。あのね、世界はもう俺の味方なんですよ。 貴方を手に入れるためのプロポーズから10年。 10年で世界は変わりました。

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