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不審者 #1

お母さんが言った『明日』を、僕は何日も待ち続けた。しかし、その『明日』は来なかった。スタッフの間でも、お母さんが現れないことが話題になった。 「毎日来る人が来ないとちょっと心配だよね。ご高齢だしさ。病気とかじゃないと良いんだけど…」 店長の言葉にその場にいたスタッフが賛同した。 「そうですね。他の店の杏仁豆腐にハマっただけなら…良いですけどね。」 僕は店長にそう返し、スタッフもそれに頷いた。 僕にとって人生の転機となったその日のシフトは、平日夜勤だった。夜中の1時も過ぎると、この辺りでは客はほとんど来ない。そろそろ店内清掃を始めようかという頃、同じく夜勤に入っていた吉田が小声で僕を呼んだ。 「おい!おい!」  「どうした?」 「あれ、見てみろよ。警察呼んだ方が良くね?」 吉田がこっそり指し示した先には、ガラス越しに店内の様子を物色する男性の姿があった。しかもガラスにへばり付きながら。 「確実にヤバいだろ?あれ。」 「うん。不審者扱いで良いかも。」 「俺、通報するわ。」 「了解。」 吉田が電話に手を掛けた時、外にいる男性と目が合った。その瞬間、男性は頬を朱に染めた。 えっ? 短時間にどんどん赤面しく。そんなに恥ずかしいのならば逃げれば良いものを、その人はその場にずっと立っていた。言葉にするなら、『動くことが出来ず、立ちすくんでいる』がピッタリだった。 「あっ、ちょっと待って!」 「何だよ。」 「ちょっと声掛けてくるよ。」 「えーっ?!マジかよ?絶対ヤバいって!」 「不審者の可能性が高いけど…何か困っているだけなのかも。」 「それだったら、店に入ってくれば良いだけだろ?」 「そうだけど…とにかくちょっと話してみるよ。ヤバそうだったら左耳を触る。そうしたら、通報して。」 「分かった。気をつけろよ。」 心配そうな吉田の声を背に、僕は男性に近づいて行った。

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