4 / 35
不審者 #2
「あのう…どうかされましたか?」
意を決して男性に声を掛けた。しかし、男性は何も答えない。更に顔を赤面させるだけ。
「大丈夫ですか?」
もう一度声を掛けると、男性はやっと口を開いた。
「あっ、いや…実は腹が減っているのだが、こんな時間でも何か売っているのかと…」
「コンビニですから、何かしらはありますよ。時間も時間ですから、ご希望に添えるものはないかもしれないけれど。」
「そうなのか!」
男性の表情がばっと明るくなった。
「どうぞお入りください。」
店内へと促すと、男性は二、三歩進んでまた立ち止まった。
「どうしました?」
「随分とラフな装いで来てしまったのだが…」
何を勘違いしているのか、どうやらドレスコードが気になるらしい。彼の装いを確認すれば、ジャケット、シャツ、パンツ。ジャケットのポケットにはチーフまで入っている。むしろ、どこぞのフレンチにも充分入れる装いだ。
「あの…コンビニですよ?」
「知っている。」
「コンビニにドレスコードなんてありませんよ。裸や下着、水着、それに近い格好でなければ大丈夫です。その装いなら充分過ぎるぐらいですよ。」
「そうなのか!」
心底安心したように、一つため息をついて、店内に入った。しかし、それも束の間、男性はまた歩みを止めた。
「今度は何です?」
「いや、たくさん物があり過ぎて…どこから見たら良いのか…」
「お腹がすいているんですよね?お弁当やおにぎりなんかから見てはどうでしょう?」
「なるほど!便利な店だな。」
「コンビニですからね。」
「コンビニという店は全部こんな感じなのか?」
「まぁ、それぞれの企業で個性はあるにしても、全体的にはこんな感じてすね。あの…お酒召されてます?」
「いや。」
「じゃあ…からかってます?僕のこと。」
「何故そう思う?」
「いやぁ…今どきの小学生でも知っていることを問われたので…」
「仕方ないだろう?こういう店に入るのは初めてなのだから。」
「えっ?コンビニですよ?」
「そうだ。」
「はぁ…」
「バカにするのか?」
男性が少し声を荒げたところで、キュルキュルルと空腹を知らせる音が鳴った。男性はまた赤面する。
「まずはお腹を満たしましょう。僕がご案内します。さっ、どうぞ。」
再び促すと、男性は小さく
「すまない。」
と呟いた。
ともだちにシェアしよう!