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不審者 #3

入店した男性は、まるでテーマパークに初めて連れて来てもらった子供の様に瞳を輝かせ、キョロキョロ店内を見渡した。よく見れば不審者どころか、品位すら感じる端正な顔立ちの人で、ただその場に佇んでいるだけでも絵になるような人だった。横顔が特に美しい。 「お腹が空いているなら、まずはお弁当かおにぎりですね。こんな時間ですから、そんなに数はありませんけど。」 弁当売り場に連れて行くと、男性は一瞥しただけで、僕に言う。 「どれも美味しそうなんだが…冷えたままでも美味しい物を選んでくれないか?」 「えっ?」 「だから、冷えたままでも美味しい物を…」 「冷えたままでも食べられなくはない物もありますけど、温めたほうが美味しいですよ。規定の時間、レンジでそのままチンするだけてすし。」 「その術を知らない。」 「えっ?」 「だから、生憎、私はその術を知らないんだ。」 「レンジ、使ったことないんですか?」 「そうだ。」 「えーっ?!」 背後から吉田の驚きの声が聞こえた。 「なっ…そんなに驚くことか?」 「大変申し訳ございません。」 僕が代わりに謝ると、 「いや、いい。そんな風に言われるのは…もう慣れている。」 男性は少し翳りを見せた。翳りのある横顔もやっぱり美しい。 「よし、これでいい。」 そう言って男性が手にしたのは、ミニサイズの焼き鯖弁当だった。 「こんな時間に食すのだから、きっとこのサイズが妥当だろう。」 男性は吉田に弁当を渡し、会計を済ませ、最後に僕に礼を述べた。 「待ってください!」 出ていこうとする男性を僕は制した。 「何だ。」 「今買ったお弁当、出してください。」 「何故?」 「うちの店はセルフレンジなんですけど、僕があなたの代わりにお弁当温めます。さぁ。」 男性はしずしずとお弁当を差し出した。二人でレンジの前に並び、温められているお弁当を見つめていた。すると、男性が口を開いた。 「本当だったな。」 「何がです?」 「母が…生前……困ったことがあったら、この店へ行くと良いと言っていたんだ…」 「えっ?」 「ここには困っている人を助けてくれる人がいるからと。」 「生前って…亡くなったんですか?お母様。」 「ああ。10日前だ。」 「それは…ご愁傷さまでした。お母様はこの店によくいらしてくださったんですか?」 「詳しくは知らないがそのようだ。一日のうち、必ずどこかで、この店の杏仁豆腐が出された。食後だったり、ティータイムだったり。そうだ!杏仁豆腐はあるか?たまには仏前に備えてやろう。」 「杏仁豆腐?ちょっと待ってください…あなたは…高台の洋館にお住まいの…香月さん…ですか?」 「何故、君は私の名を知っている?」 突然、目の前が真っ暗になった。 あの時、『また明日』と笑顔で別れたあの人が… 亡くなった?嘘だろう? 加熱終了を告げるレンジの音が何度も店内に響く。しかし、僕はあまりの衝撃で、男性を見つめたまま、その場から動くことが出来なかった。

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