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初めての… #6 side C
重たい瞼を開き、まだぼんやりとする意識の中、達彦さんの声が遠くに聞こえた。
「そうだ!粥だ!……いいから早く作り方を教えたまえ!」
う〜ん…誰かと…電話してるの?
「だから言ってるだろう!私が作る!……だから、その坊っちゃんが発熱したんだ。……コンビニ?コンビニに行っている間に千秋君の熱が上がって、苦しんだらどうする?可哀相だろう?……もう良い!君には頼まん!」
達彦さんはタップした後、スマホに向かって呟いた。
「全く!」
通話の相手は平田女史かな?達彦さんの理不尽な会話に辟易した表情の彼女が目に浮かび、僕は堪らず笑い出す。僕の笑い声に気が付いた達彦さんは、慌ててベッドの前でしゃがんだ。そして、咄嗟に僕の手を両手で包むように取った。
「目が覚めたのか?」
「はい…」
「気分はどうだ?」
「随分、楽になりました。」
「そうか…それは良かった…」
達彦さんは心底安心したように息をついた。
「あの…ごめんなさい…」
「何故?」
「その…病気でもないのに発熱なんて…子供みたいで恥ずかしい…」
昨日、僕達は初めて結ばれた。興奮したせいか、体力がないせいか、僕は今朝になって発熱をした。
「いや、謝るべきは私だ。昨晩は随分君に無理をさせてしまった。」
「ううん…すごく嬉しかった…素敵な夜でした…ありがとうございます…」
「君って子は…」
達彦さんは僕の髪を梳き、額にキスをした。
「でも、…驚きました…達彦さん、その…全然治まらなくて…出してもすぐ大きくなるんてすもの。何回ぐらいだったかな…」
握られていない方の手で指を折る僕を達彦さんが制す。
「こらこら!数えんでいい!…まぁ……それだけ君が…魅力的だったってことだ。」
「どうてすか?もうウズウズは落ち着いたでしょう?」
「いや、ウズウズは常にあるさ。君の魅力をもっと知ってしまったからね。ただ、コントロールする術は得たよ。」
「じゃあ、もう僕を避けないでくれますか?真っ直ぐ帰って来てくれる?」
「ああ、悲しい思いをさせてしまって、本当にすまなかったな。こんなに素敵な子が待っていてくれるんだ。用事がない日は真っ直ぐ帰るよ。」
「ありがとう…嬉しい。」
「どうだ?腹は空いてないか?」
「少しだけ…達彦さんは?お腹が空いたでしょう?今、何時かな?」
時計を見れば、もう10時を回っていた。
「もう10時?ごめんなさい。こんな時間まで寝てしまって。今、ご飯の支度します。」
「いいから、君は寝てなさい。」
「病気じゃありません。」
「そうだが…きっと疲れているんだ。外で何か買って来よう。何が良い?」
「じゃあ、僕も行く!離れたくないです!」
「おや、君は発熱すると随分と子供になるんだな。」
「ご、ごめんなさい…」
「いや…冗談だ。離れたくないのは私も同じだ。そうだ。さっき台所で素麺の箱を見つけたんだ。あれなら私にでも出来そうだから、それで良いか?」
「素麺?茹ででくれるんですか?達彦さんが?」
「茹でるだけだろう?出来るさ。只、初めてやることだ。失敗するかもしれん。その時は許してくれ。そうだ!起き上がれるなら隣で見てるか?それなら失敗するリスクもないし、離れることもない。どうだね?」
「はい!」
「じゃあ、まずは静かに起きよう。」
達彦さんは僕を起こす。
「ねぇ、達彦さん…」
「何だ?」
「僕…23年生きて来て、今が一番幸せです…」
「それは、私も同じだ。さっ、ゆっくり立ち上がるぞ。」
それから、右手で僕の肩を抱き、左手で僕の手を握った。達彦さんの手のひらから優しさが伝わった。僕を大切に思ってくれているのが充分に分かる。
「大丈夫か?」
「はい。」
「ああ、それから…主寝室を作ろう。君と私のだ。ダブルベッドでも、シングル二つでも君の好きなようにしたまえ。」
達彦さんは赤面していた。恥ずかしいとそれを隠すようにわざとぶっきらぼうな物言いをする。僕はもうそんなのとっくにお見通し。
「ねぇ…達彦さん…キス…して。」
「いや、しかし…」
達彦さんは躊躇する。
「お願い…」
達彦さんは僕にキスをする。そして、唇を離した瞬間、こう言った。
「あんまり煽るなよ。」
頬を少しだけ歪めて笑いながら。
あっ、僕の一番好きな顔。
もぉ…本当に格好良いんだから。
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