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山室千秋 #3 side T

寝起きのぼんやりとした頭のまま、開いた朝刊は昨晩の衝撃的な話を裏付けのに充分過ぎるものだった。私はその記事を何度も目を凝らして見る。その度に『まさか』と呟いた。しかし、何度見ても、どう見ても、私の頭に過った考えは間違いなさそうだ。 やっぱりどこか確証が欲しくて、講義の合間に大学の図書館で書籍を数冊借り、研究室でそれらを読み耽った。すると、ランチから戻った平田君が言う。 「どうしたんです?先生が政治の本だなんて!」 「まぁ、たまには別ジャンルも手に取ることもあるさ。」 「へぇ〜あっ、連城総理。」 件の朝刊に気が付き、彼女はそれを手に取った。 「『連城総理、首脳会談のためA国入り』かぁ…相変わらず格好良いですよね、この人。タラップでこんな風に手を振る姿も絵になるし。今までの歴代総理の中でこんなにもスマートな物腰の人っていましたかね。隣にいらっしゃる夫人もお綺麗ですし…まさに美男美女、羨ましい限りです。」 「随分ご執心だな。」 「別に特別支持しているワケじゃないですけど、一生懸命頑張ってるクリーンな印象がありますし、やっぱり何てったってこの容姿ですよ。女性はイケメンでスマートな物腰の人弱いですからね。」 「そんなもんかね。」 「そんなもんです。先生も容姿は良いですけれど、中身がね…人間性が本当に残念ですから。中身さえどうにかなったら、良かったのに。」 「ふん、悪かったな。」 「坊っちゃんもどこが良かったんですかねぇ…連城総理じゃないですけど、坊っちゃんほどの容姿と物腰だったら、選り取り見取りですよ。より寄って、選んだのがこの残念な先生とは…あっ、そう言えば、坊っちゃん、明日退院でしたよね?」 「ああ。」 「快気祝いに何か差し上げたいのですが…」 「分かった。今日見舞いに行くので、それとなく聞いておこう。」 「ありがとうございます。それと、先生も気を付けてくださいよ。」 「何をだね?」 「坊っちゃんが入院したのって、疲労から来るものだったんですよね?」 「まぁ、それが主な原因らしいがな。」 「残念な先生の世話があまりにも大変過ぎて入院したに違いないんですからね!わがままも大概にしてくださいよ。」 「おいおい。」 「坊っちゃんを逃したら、先生には冬の時代、いや暗黒時代しかありませんから、嫌われないように精進しないとですよ!あっ、郵便物取ってくるの忘れた!ちょっと行ってきまーす。」 悪態をつきながら、平田君は研究室を出て行った。私はもう一度、読んでいた本に目を戻す。現、内閣総理大臣、連城智秋(れんじょうともあき)氏の半生が書かれた本。ページをめくると、そこには二十代〜三十代頭と思われる連城氏の演説中の写真が載っていた。この写真で全て確信に変わる。 「そうか…全て父親似なんだな。智秋と千秋…なるほど…母親の思いが伝わってくる…」 疑念が全てクリアになって、私は本を読むのを止めた。背もたれに体を預け、瞳を閉じ、病室でひっそりと佇む千秋を思う。 千秋は今頃どうしているのだろうか… 苦しい思いをしていないと良いのだが…

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