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悩める魔王 #1 side H (Hirata-san)

「ゔ〜ゔ〜」 研究室に入るなり、先生はずっと唸っている。腕を組み、研究室内を行ったり来たり。はたまた椅子に座って頭を抱えたり。人の心の機微、世間体、時代の流れ、周囲のことなど全く気にも掛けない、この残念なお坊ちゃま先生が、こんな風に苦しむ姿を見せる原因があるとするならばただ一つ。 「先生?」 「何だ?」 「坊ちゃんと何かあったんですか?」 「なっ、何でそれを!」 先生は分かりやすく動揺した。この人が動揺する姿を見せる日が来るなんて…呆れながらも少し感動している自分がいた。 「ケンカてすか?」 「そんな無益なこと、私がすると思うか?」 「そうですね。」 「千秋君が…怒って行ってしまったのだよ。」 「家出ですか?」 「いや。そうてはない。いつもは一緒に家を出て、雑談を交わしながら駅まで向かうのだが、先に行ってしまうのだ。後からついて歩くのだが、何度となく名を呼んだが無視されてしまう。とうとうそのまま店に消えてしまってな。」 「何を怒らせたんですか?」 「さっぱり分からないから悩んでいるのだよ。」 「そっか、坊ちゃんは先生と違って繊細な方ですからね。残念な先生がそんなの分かるわけないか。」 「失敬な!」 「あら、間違ったこと言ってます?」 「ゔ〜ゔ〜」 先生はまた唸りだす。面白いからそのままにしておこうかしら?普段、私を虐げている罰で。先生が苦しむのは良しとして、坊ちゃんが悩んでいたらどうしよう。坊ちゃんは病み上がりだし、あの残念な先生が一人で人の機微に関すること解決出来るワケないし…まっ、仕方ない。私の出番かな。 先生の目を盗みながら、メールを送信する。 Dear 坊ちゃん♡ 只今、研究室では面白いミュージカルを開催中です♪ 顔が良いだけの魔王が、愛しの姫に嫌われたと頭を抱えて右往左往。なかなか面白いので、こちらは放置しておきますが、坊ちゃんの方が心配です。大丈夫?私で良ければ相談に乗ります。 平田

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