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ぼくちん
「なんなんだよ、スギヨシ!」
なかなか怒らない僕でも、今日はダメだった。
ちょっとお腹を壊したから、客が引いた時にトイレに1回入っただけで『何しにきてんのって、思うよ正直』って壁ドンしながら冷たい目と声で言いやがったアイツ。
超有名大学を卒業したらしい僕より10歳上の先輩……最近、バイトリーダーに昇格し、勝手に調子に乗ってるただのフリーターなくせに。
「こっちは大学行きながらバイトしてんだっつうの……たまには腹ぐらい壊すだろ」
ブツブツ言いながら、急いで買ってきたお茶とノンアルコールビールとおにぎりが入ったビニール袋を軽く振って早足で歩いていく。
アパートの前まで来ると、自分の部屋の前に人影が見えた。
「ヤバっ……もう来てるし!」
スマホを起動させて時間を見ると、22時で、30分も遅れていた。
今までにないスピードで階段を上って、部屋の前に行く。
「すいません、待っていらしたでしょう……すぐに開けますから」
風邪を引いたらいけないと思ってすぐにカギを探してたら、大丈夫でしゅと柔らかい声が聞こえた。
「むしろ……待たしゃれるのは大好物でしゅから、ぼくちん」
舌足らずでぼくちん……なにキャラかはわからないものの、朝の電話を思い出す。
スゴイやつ、覚悟……うん、そんな感じだ。
カギが開いてすぐに入り、電気をつけてから彼に入るように促すと、はわわわっと声を上げながら入ってきた彼は僕より背が高いのがわかった。
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