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雲の絵

 「あっ、はいはい〜描いてますよぉ。そこから、あのこと見えてますかぁ?」 まだキョロキョロしてる人……彼に近づきながら手を振ると、彼も気づいたのか、小刻みに手を振ってくれた。 「ほぇ〜わかりましたぁ。では、いったんバイバイですぅ」 バイバイ?と僕が言うと、ブチッと電話が切れる。  「どうもぉ、羽鳥(はとり)と言いますぅ。よろしくどうぞぉ」 そう聞こえて前を見ると、誰もいなかった。 「ここですぅ。ちょっと目線下げてくださいなぁ」 なんて柔らかく高い声で言われたからその通りにすると、左脇に緑の板とスケッチブックといちごの帽子を抱えた茶髪のボブの男性……羽鳥が大きい前歯を見せて笑っていた。 「佐藤平太です……よろしくお願いします」 僕より背が低いなんて、と思いながらもなんとか口角を上げて手を差し出すと、ゴツゴツした手で力強く握られてびっくりした。  「どんな絵を描いてたの?」 いちごの帽子を被り直してる羽鳥にそう聞くと、んーとねぇ、とのんびりとしながらスケッチブックを開き、渡される。 真ん中に1つ、下に3つの生き物らしきものが描かれてるものの、よくわからない。 「ウサギとサルとゾウが戯れてるのを、鷹が見物してる絵……弱肉強食的な感じかなぁ」 カバンに緑の板を仕舞いながら、んふふっと笑うのを聞いてたら、そう見えなくもないかなと思えてくる。  「ちょっとパン屋でおやつしようなぁ」 宣言してからにへっと笑い、僕の腕を組んで歩き出す羽鳥。 「ねぇ、ツクにしていい? 『創る』のツクで」 「めっちゃ良い名前……嬉しいなぁ」 本当に嬉しそうに鼻歌を歌いながら歩いていくツクにつられて、僕も嬉しくなった。

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