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おうたさん
「あっ、そうそう! あのね?」
何かをひらめいたように一際高く大きい声を上げ、パンツのポケットを漁り始める。
取り出したのは緑のイヤホンが絡まった青色の音楽プレーヤーだった。
「へいちゃんはRを右耳につけてぇ……良い音楽一緒に聞こうなぁ」
ふふっと笑いながら片方のイヤホンを渡してきたから、うんと言って右耳に差し込む。
しばらくして流れてきたのは、小さい頃に聞いた男性デュオの曲。
「すごい良い声だね。懐メロのカバー?」
ツクを見ながら軽く問いかけたのに、ツクは前を向いたまま、少し口角を上げた。
「これ、エッちゃんが歌ってるの……あの憧れてた昔だけど」
そのまま上を向くツク。
味わいのある、どこか若々しい歌声があのエッちゃんさんだと言われたらびっくりするし、なにか2人なりの関係性を感じた。
「エッちゃんさんの声……すごいんだね」
昔の俺にそっくり、って言っていたけど、僕は歌のセンスも普通だし。
こんなすごいエッちゃんさんと僕、どこが似ているんだろう。
「普段は静かなんだけど、歌に入ると一変したように暴れ出して……歌声も情緒的で刺さるし、本当にすごい人だったんだぁ」
どこか懐かしげに、どこか寂しげにそう言って、握っていた手の力を強めたツク。
「今もすごい人だよ、エッちゃんさんは」
僕は珍しく自信を持ってそう言うと、ツクはほぇ?と声を上げて僕を見た。
「おうたさんでなくても、あの深みのある声で応援されただけで昨日は乗り切れたんだから」
自信を持って言い、ツクに微笑みかけると、ツクは吹き出すように笑い、ありがとうなぁと言った。
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