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ユキさん
1限が終わった後、すぐにスーパーに行って、ネギをカゴに入れる。
肉売り場で品定めをしてると、ユキさんに会った。
ギンガムチェックのワンピースを着たユキさんは仕事でキリッとしてるイメージとはかけ離れた可愛らしさで、思わず50近いおばさんには見えなかった。
でも話し方はさすがにおばさんで、ズイズイと色んなことを聞いてくる。
『鶏肉ダイエットをしてる友達に、ヘルシーな料理を振る舞おうと思って来たんです』
まとめて言うと、あらおばちゃん嬉しいわぁって抱きつかれ、安くて良い肉を探してくれて……しまいにはバイト先の焼き鳥を奢ってくれることになった。
『おばちゃん、心配してたのよ……友達大事にしなさい』
頭をポンポンと撫でてくれたユキさんにちょっと母親の面影が重なった。
学校もバイトも終わり、いつものリュックは背中、藍色のトートバッグを肩、右手にユキさんに買っていただいた焼き鳥を持って大通りを走る。
アパートの階段を一段飛ばして駆け上がり、慣れた手つきでカギを開けて中に入る。
リュックを投げるように下ろし、トートと焼き鳥をキッチンの近くの小さいテーブルに置いて、シンクで手を洗う。
昨日聴いたエッちゃんさんの歌を口ずさみながら鍋に水を入れて、火にかける。
パン屋からラブホテルに行く途中にまたエッちゃんさんの歌を聴いた。
エッちゃんさんの強い声とブルースハープの間に聴こえた高い声とギターはもしかしてと思いながらツクにこう聞いてみた。
『もしかしてツク、エッちゃんさんと一緒に歌ってた?』
そうしたら、鋭いねぇ、ヘイタとぎこちなく笑ってふぅと息を吐いた。
『そう、あの人のそばにあはいたんだ……あはそれだけで幸せだったんだけどね』
「もう2度と……か」
歌詞にもあるその言葉を口ずさんでツクの気持ちを考えたら、胸がチクッと痛んだ。
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