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言葉の意味

 「お邪魔します」 緊張した声だけど、ちゃんと挨拶する姿にしっかりした人なんだなと思う。 「今、盛り付けるから楽にしてて」 白くて大きい手を優しく離すと、キヨは黄色のシャツの襟を正して黒いスキニーパンツを履いた膝を折った。  僕は部屋の電気をつけて、焼き鳥を温めたり、食器に盛りつけたりして急ピッチで準備を進めた。 「焼き鳥は僕のバイト先のやつだし、ネギ塩だれをささみで和えたやつはお好みで絡めていいから」 キヨに優しく言って、焼き鳥とささみのネギ塩だれ和えととり野菜スープをキヨの前に出した後、今度はご飯を盛りつけに向かう。 「……鶏肉ばっかやん」 ポツリとそうつぶやいたのを聞いて、イヤだった?と背を向けながら問いかける。 「いや、ええわ」 ため息混じりの声で言うキヨに、いくら好きでも鶏肉ばっかりじゃダメだったかと反省した。 「ごめんね、無理しない程度に食べて」 ご飯と箸を持っていきながら言ってみると、キヨは僕の方を数秒見て、うつむいてしまった。  一緒に手を合わせて食べ始めると、何も言わずに黙々と食べていき、僕の顔を見ては目を逸らすキヨ。 焼き鳥はもちろん美味しいけど、ささみもスープもまずまず美味しくてご飯が進むのに……キヨの口には合わなかったのかな。 なんて思いながらささみとたれを何パターンか試して絡めて食べるキヨの姿を見ていた。  「ご馳走さまでした」 キヨが手を合わせたから、お粗末さまでしたと言うと、ふぅと息を吐いて髪を掻き上げたキヨ。 「おりぇ、帰ってもええ?」 鋭く細い瞳が僕に刺さり、キヨと合わなかったんだと思い知らされた。 「気をつけて帰ってね……今日は来てくれてありがとう」 僕は悲しみの渦を押し込めるように口角を上げた。 キヨの瞳が少し揺れたが、前髪でまた目を隠して立ち上がった。 「タクシー来るまで時間潰したいから、シャワー貸して?」 なんて言うキヨに、浴室とタオルの場所を教えると、キヨは肩を落として去っていった。  「やっぱりイヤだったかな……」 洗い物をしながらキヨの姿を思い返してみる。 ここに来る前にもイヤがってたし、ここに来てからも戸惑ったり、うつむいたりして暗い表情しか見えなかった。 心を開くどころか、むしろ南京錠を掛けたように固く閉じてしまったのではないかと思う僕。 「やっぱり僕は……」 続きが言葉にならなかった僕は水の流れる音に混じるように、目から悲しみの雨を降らせたのだった。

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