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新ちゃん

嵐の前の静けさなのか、それとも嵐が過ぎ去った後なのかはわからないけど、その姿を見ただけで空気が変わったことだけはわかった。 太陽のように明るいオレンジ色のスーツから黒のワイシャツが見え、赤黒く光るネクタイを締めた男性が歩いてくるのがスローモーションのように見える。 「エクスキューズミー、今から言う文をトランスレイトしてな?」 僕のレジに来た彼は大きいサングラスをしていたけど、言葉と声で根切さんかなと思う僕。 「OK. Please,allow me.」 僕が受けて立つように言うと、彼はふんと鼻を鳴らした。 「ヒーセイドザットザットザットザットザットボーイユウスドゥインザセンテンスワズロング……わかるか?」 なんて挑発するように口角を上げる根切さん(仮)。 でも、残念だな……英語だけは僕、得意なんだ。 「あの少年が言ったその文で使ったあのthatは間違いだったと彼は言った」 僕が淡々と言うと、彼はグレイトやと金色の前歯を見せて笑い、サングラスを外した。 茶髪でリーゼント風のもこもこ前髪に合わない……少年のようにキラキラしたつぶらの瞳が僕を見つめてきた。 「初めまして、佐藤平太くん……早速やけど、店長さんおる?」 差し出された名刺には‘‘中臣グループ 専務 根切新一(ねぎりしんいち)’’と書いてあった。 「ただいま中島が神戸を呼びに行きましたので、少々お待ちくださいませ」 ユキさんは冷静だけど、穏やかな声で言った。 スギヨシ……こういう時の動きは素早いな。 「それにしても新ちゃん、ちょっとそのスーツ派手じゃない? おばちゃん目がチカチカするわ」 さっきと打って変わって、手をバタバタさせて慣れたように話すユキさんにびっくりする。 「ちょいとこれからデートなんで気合いを入れてみたんですよ……それにしても変わらないですねユキさん、20代に見えますわ」 「もう、新ちゃんたら! お口が上手くなったわね」 2人とも楽しそうに笑っているのを見て、何が起きてるのか全然理解出来ずに僕はただ呆然とするしかなかった。

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