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いきなりのエツ
根切さんがカミナシの元へ行った後に、ユキさんとスギヨシからたくさん話を聞いた。
ユキさんは中臣グループの事務員をしていたから、昔から根切さんを知っているし、ユキさんがお父さんの介護のために辞めることになった時に色々してもらったそうだ。
スギヨシのうんちくでは、中臣グループは食品からIT、金融まで幅広い分野で展開された大企業で、この街を立て直してくれたありがたい会社らしい。
ちなみにうさぎのキャラクターのラルリちゃんは会社のキャラクターで、この街の公式のゆるキャラになっているから、この街の人は何かしらラルリちゃんのグッズを持っているとか。
振り返りながら、スギヨシからもらったラルリちゃんのキーホルダーを眺める僕。
「ヘイユー! リラックスしぃ」
横を見ると、金歯を光らせて笑っている根切さんがいた。
そういえば、話を終えたカミナシに早く帰され、なぜか黒いベンツに乗せられたのを思い出した。
「いきなり知らんおっちゃんにこんなだだっ広い車に乗せられたら、リラックス出来るわけないやろ……アホ」
運転席から聞き覚えのある深みのある声が聞こえて、びっくりする。
「エツ……なんで?」
「おお、坊主……遅くなったけど、助けに来たで」
目を凝らしてバックミラーを見ると、後ろ髪をまとめているけど、鼻と口元の髭がそのままのエツがいた。
「その言い方やと、ミーデビルやんか」
「金の亡者には間違いないから、ピッタリやで?」
「たまったもんやないわ」
「アイヤーやな、ナンボ」
ポンポンとリズム良く交わされる会話に、仲の良さが僕でさえ理解できた。
「運転手ってちゃんとした人じゃなくていいの?」
エツだと不安っていうより専属の運転手っているだろうからという意味で言ったんだけど、根切さんに大笑いされる。
「エビス、一応ッミーの秘書やから、だ、大丈夫……ノープロブレム、ヘッヘッヘッ」
「俺の家は代々根切家の秘書でな、しょうがなくやってんねん……アメリカに行ったのはそのためやったんやけどな」
笑い続ける根切さんを尻目に、エツは含みのあるように言う。
それはツクのことを言っているのか、それとも他のことを言っているのか……僕にはわからなかった。
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