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火焔・ソル2
「外に出たい」
とソルが言い出したのは、それからしばらくしてからだった。
「は? 外?!」
「ここは退屈だ。特に仕事もなく、一日中暖炉の中でぼんやり過ごすのは性に合わない。外にはおもしろい事があるのだろ?」
「まぁ、なくもないけど…」
あると言っても、せいぜい畑を兼ねた小さな庭と、愛馬・陽王がいる馬小屋だけ。
それ以外には、周りには大きな森と、広い河しかない。
「オレは外に行きたい!」
「分かった分かった」
ソルにねだられて、皆黒は仕方なく両手を掲げた。
「しょうがないな。それじゃあ《浮火》にしてやるよ」
魔法を使って暖炉に手を入れ、焔の一部をちぎり取ると、
ソルは小さな炎となってフワフワと室内を漂った。
「おぉ、これはいいな!」
床から天井まで飛び回り、しばらくしてようやく落ち着くと、
ソルは人間の姿になって、皆黒に笑ってみせた。
「これでどこにでも自由に行ける!」
「あまりうろうろするなよ。近づきすぎてカーテンやドアを燃やすな」
「わかってる!」
「保護魔法をかけているから、窓やテーブルクロスがそう簡単に燃えることはないだろうが」
「うるさいよ。あまりガミガミ言うな。あちこち触らなきゃいいんだろう?!」
「…ソル」
皆黒は、頭を抱えた。
小さなため息をつき、額に手のひらをあてて俯いた。
「いいか、ソル。ひとつ約束してくれ。――森と河には、決して近づかないこと!」
ソルには保護魔法をかけたから、あたりかまわず火の粉をまき散らすことはないだろうが。
万が一、ということもある。
「自分が火の精霊だということを、絶対に忘れるなよ」
強く言い聞かせると、
「…わかった」
ソルは生真面目な顔で、神妙に頷いてみせた。
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