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洪水2
――幸いなことに、…というべきか。
皆黒が思い描いたような結末は訪れなかった。
このまま死んでしまいたいと願った彼の予想を裏切り、
屋敷はぎりぎりのところで災厄をまぬがれ、
特に大きな被害もなく朝を迎えた。
――小さな庭と馬小屋、そして愛馬・陽王が下流へと流されてしまった以外は。
どうにか残った屋敷の玄関を開けると、ソルはおそるおそる外に出てみた。
「…水が引いてる。…空が、青い。すごいな」
川辺に立ったソルは、茫然とした顔で高い空を見上げた。
昨日まで庭があった場所は泥土にまみれて、
馬小屋があったところは、朽ち折れた大木の山が積み重なっている。
「…陽王、……陽王は、どうなっただろう」
おとなしくて可愛い馬を1頭失ってしまったことに胸を痛めていると、
その時、
彼の頭上に、1羽の小鳥が飛来してきた。
「鳥?」
――真っ白な、…けれど翼や尾の先はカラフルな虹色に彩られている。
その鳥が、円を描くように滑空しては、何度も彼の上をぐるぐると飛んでいる様子に、ソルは首を傾げた。
「なんだ。迷子か?」
そう呟いた矢先。
下流の方からバシャバシャと水音が響き、
誰かが栗色の馬を引きずるように、河の中を歩いて来るのが見えた。
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