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洪水4

「皆黒っ!」 家に戻ったソルは、大急ぎで皆黒のところに駆け込んだ。 「皆黒! なんかいた! 河に! 青いのが!」 「え、なんだって」 鍋に具材を投げ込んで料理中の皆黒が、難しい顔で振り返った。 「だから、青いのが! なんか見たことないキレイなのが! 陽王をつれて戻ってきた。…河から!」 「陽王が戻ったのか?!」 「や…、それより、青いのが…っ!」 「青いのなんかどうでもいい。それより馬が大事だ!」 「でも、」 「というか、お前! また約束を破って河に近づいたな?!罰としてしばらく外出禁止だ。暖炉にこもってろ」 「えぇっ?!」 皆黒はソルを屋敷に閉じこめると、駆け足で河に向かった。 川辺に立ちすくんでいた陽王が、嬉しそうに鼻先を摺り寄せてくる。 皆黒は、待ちかねたように両手を広げて抱きついた。 「陽王! よく戻ったな。偉いぞ!」 馬の首を叩き、思い切り顔を撫でて褒めてやった、その時。 頭上で、くるりと小さな鳥が旋回した。 はっと顔を上げたとたん、 その鳥が滑空した先に、人影が見えた。 「…、」 河の中央付近の岩場に、誰かが隠れている。 …それが《何》なのかすぐに察したものの、 皆黒は視線が合う前に、ふいと顔を背けて無視を決め込んだ。 「――行くぞ、陽王。馬小屋に戻ろう。腹が減ったろう? よく頑張ったな」 馬の無口を引っ張って小屋に戻っていく様子を、 河の中で若い男がじっと観察している。 ――そんな2人の姿を、 ソルは窓ガラスに張り付いて見つめていた。

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