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水精霊マール2

外出禁止の許可が下りた日。 ソルはすぐさま外に飛び出した。 坂の下の階段を駆け下り、小さな庭を横切って、河へと向かう。 けれど、 辺りはしんと静まり返り、魚が跳ねる音すらしない。 川辺にぼーっと突っ立っていたソルは、 足元の小石を拾うと、ぽいっと水面に放り投げた。 その音に気づいて、マールが顔を出すかと思ったのだ。 けれど、 (もし投げた石に当たったりしたらマズイよな…) そんなことを思い直し、 握りしめた小石を地面に放り出すと、今度は庭先から花を摘んで再び河に戻ってきた。 それを一つ一つ河に投げ込んでいく。 赤や橙の花が、ぷかりと水面に浮かびながら、ゆっくりと時間をかけて下流へと流れていく。 その様子を、ソルはまんじりともせずに見守った。 (…やっぱり、来ないか…) 諦めぎみにその場にしゃがみ込み、すっかり諦めて落胆した。 そんな折、 ふいに、ソルの頭上で、 例の小さな鳥がぐるりと空を旋回するのが見えた。 (来た…!) 飛び上がるような気分で身を乗り出し、息をひそめて水面を見守る。 と、水面からにょきりと現れた白い手が、花をひとつ握りしめたかと思うと、再び水の中に沈んだ。 (…あれ?) 首を傾げた直後。 再び水面に飛び出した手が、やはり同じように花をつかんで沈んでいく。 その光景に茫然としていると、 パシャッと水音を響かせたマールが水の上に顔を出し、辺りをうかがうようにきょろきょろし始めた。

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