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恋火1
屋敷の庭に咲く花を乱暴にちぎり取ると、ソルは大急ぎで河に向かった。
いつものように花を投げ落とし、
水面に浮かび上がるささやかな気配を見逃さないように気を張っていると、
まもなくして水の上に小さな影が浮かび上がってきた。
「あ、」
身を乗り出した瞬間、
それが空を滑空する虹色の小鳥の影だと気づいた。
(…来る…、)
そう思ったとたん、ほっそりとした白い手が水面に現れた。
前と同じように花を掴んでは沈み、
また浮かび上がってきたと思ったら、またもや細い手が花を掴んで視界から見えなくなっていく。
(顔を出したらいいのに…警戒されてんのかな。まぁ仕方ないけど、)
河べりに腰を下ろし、長期戦を覚悟して小さな波紋を見つめていると、
ふいに、青い髪が水面に揺れた。
「!」
びくりと震えたソルの目の前で、姿を現した水精霊が空を仰ぐ。
その姿に心を揺らし、思わず、
「マール!」
と叫んでしまった。
――しまった、と思った瞬間。
驚いたマールが、真っ青になって水音を響かせながら、河の中へと消えていく。
「あああああ~」
がっくりと肩を落としたソルの上を、小鳥がからかうように飛び回り、
それが一層腹立たしくもあった。
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